【令和8年 弥生の献立】
やわらかな陽射しが山の端を包み、
凛とした空気の奥に、ほのかな甘い香りが混じりはじめました。
冬の名残を抱きながら、春へと歩み出す頃です。
先付や煮物椀には、庄内浅葱やグリーンピースの淡い緑。
口に運ぶたびに、ああ春が来たのだと、思わず胸の内でつぶやきたくなる香りです。
海からもまた春の便り。
豊後水道より櫻鯛と春告魚、宮城石巻より相奈女が届きました。
爽やかな出雲富士のしぼりたてを合わせてどうぞ。
今月、ひときわ印象を残すのは八寸です。
穴子寿司のやわらかな甘み、蓬麩田楽の香ばしさ、
行者大蒜や山独活のほろ苦さ。
この苦みこそが春の正直さだと、毎年感じます。
アンチョビやチーズの余韻が重なり、
和の枠をそっと越えていく一皿に。
寄り添うのは「オキシデンタル」。
日本酒と同じ醸しの技法でありながら、アメリカの地で生まれたクラフト酒。
淡くやわらかな色合い、ドライホップの華やかな香り。
和と洋の気配を軽やかに結ぶ、今月の一本。
春の自由さを映したようなお酒です。
おすすめの一品には、函館産鱈之介のクリームシチュー。
湯気の向こうに広がる、やさしい乳白の香り。
コルシカ島の白ワインは、海風を思わせる塩味とふくらみを携え、
鱈の旨みと静かに溶け合います。
黒胡椒の余韻が、春まだ浅い空気に心地よく響く。
気づけば、椀を置くのが惜しくなっていました。
淡い光に包まれながら、
香りと温度がゆるやかにほどけていくひととき。
どうか、ゆっくりと春の入り口をお楽しみいただけたら。


























